第1回『たまゆら』同人誌寸評
小誌の顧問佐々木国広が寄贈された同人雑誌の中から作品をピックアップして感想を述べています。これまで掲載されたものを順を追ってご紹介します。
★『たまゆら』118号(令和2年8月30日刊)」から
☆森ゆみ子「サピエンスの部屋」(『空とぶ鯨』第20号)
千恵はメンタルケアルームのカウンセラー、人生相談所の看板を掲げている。或る女子高校生は友人関係で、和子おばあちゃんは息子のことで、四十代の鰥夫は他人の幸不幸にこだわること云々で相談に訪れる。千恵は慰めたり、寄り添ったり、逆に自信を無くしたりするが、視点を変えれば新しいことが見えてくるし、何もないところに意味があるのだと諭したり、自ら気づいたりする。要するに諸々の執着から、あるいは孤独からの脱却を促して、相談者に安らぎを与えようと奮闘するのだが・・・。
ところで、説法でいうなら慈悲喜捨は肝心要だが、三十代で独身、非力を自覚する主人公がこのような難しい仕事に就いた決め手とか動機は何だったのか、「悲しみの詰まった殻」はあったのかどうか、いささか気にかかる。
☆小澤房子「楓子さん」(『空とぶ鯨』第20号)
小川みどりは実父の工場が倒産したため洋裁の技術を活かそうと、リフォーム洋服店に転職するが、工業用ミシンを操っていてしばしば失敗する。暗い過去をもつという主任の楓子から責められたり、嫌味を言われたりして怖くなる。実はみどりは難聴の持病を隠していたのである。やがて補聴器を付けていたことがバレてしまい、暗に辞職を促され楓子とも別れを・・・。
難聴をテーマにした作品は極めて珍しいので取り上げた。誰しもコンプレックスは隠したがるものであろう。主人公は伝音性難聴ではなく、感音性難聴なのだろうか。治療は諦めているようだが、中医学では耳マッサージとかエアー縄跳びなど幾つかの改善策が有効だとする参考書もある。
※この同人誌評は定期的に更新します。