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学校に行きたくても行けない子どもたち 『たまゆら』の作品から

 

 

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 学校生活に馴染めず不登校に苦しむ児童生徒がいる一方、学校へ行きたくても行けない児童生徒もたくさんいる。親の育児放棄などで弟妹らの面倒をみなくてはならない子どもたちだ。小誌『たまゆら』でも家庭と学校で起こっているこの問題をテーマとした作品が度々出稿されている。
 最近では119号の森ゆみ子さんの「ばあちゃんの匂い」だ。
 主人公・千恵は心の相談員として中学校に週二日ほど勤務する。育児放棄している母親に代わって弟たちの面倒を見ている中学三年の奈波を気にかけている。学校も事態を掴んでいるが母親が変わらない限り無理だと匙を投げている形だ。
 千恵は何の変化も与えられない自分に悔しい思いを募らせる。奈波本人は「弟たちは可愛いんです。だからいいんです」と言い、千恵は切なさを覚える。
 ある日久しぶりに登校した奈波は千恵に身体に委ね抱きついたまま離れない。「先生は、ばあちゃんの匂いがする」と言う。好きだった自分のおばあちゃんと同じ匂いだ、安心の匂いだと。千恵はそんな奈波を愛しく思う。
 現状を打開できないのかと千恵は教頭に詰め寄るが「相談員の先生は相手から相談の要求があって、それに応えるのが仕事ですよ」と拒絶される。
 昨日の新聞(京都新聞夕刊10月23日)に、「ヤングケアラー」として家族の世話がある生徒の実態調査を行った記事があった。
 さいたま市教育委員会の調査で、6月、市立中学と市立高校など生徒34,606人にアンケートを行ったところ世話をしている家族がいると答えた回答は中学生で1,273人で4.51%に上った。高校生で0.69%の14人だった。「世話を必要とする家族」として最も多く挙げたのはきょうだい(631人)、母親(513人)、祖母(317人)だった。
 高校生になると減るのはなぜだろう、母親の世話というのはひょっとすると母親が病気等で動けず育児が生徒に回ってくるということを裏付けているものなのだろうか。生徒の義務教育を守るために当局は踏み込めないのだろうか、疑問は尽きない。
「ばあちゃんの匂い」はこの社会問題を小説にして提示し、なおかつ穏やかな文体で迫った秀作だ。
 ※119号のバックナンバーあります。
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